故遠藤周作氏の代表作『沈黙』。
マーティン・スコセッシ監督によってハリウッド映画化された不朽の名作は、「トモギ村」のモデル、黒崎村(今の外海地区)を舞台にして描写されます。
その外海地区では、世界遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に属する出津教会・大野教会があまりにも有名。
しかし、それらに勝るとも劣らない名教会が、五島灘を望む高台に聳立しています。
吉永小百合・二宮和也主演『母と暮せば』、本田翼・東出昌大・吉沢亮主演『アオハライド』にも登場する「カトリック黒崎教会」。その100年の歴史をつづりましょう。
場所は?【駐車場付きマップ】
国道202号線上から建物が視認できるので、容易にたどり着けるでしょう。 |
住所:長崎県長崎市上黒崎町26
駐車場は教会裏手です(マップにマーク済)。
拝観料 | 無料(※献金箱に寄付をお願いします。) |
拝観時間 | 9:00~17:00 ミサや冠婚葬祭時には、拝観不可な場合あり。 |
主日ミサ |
土曜|19:00~20:00 日曜|6:00~7:00/9:00~10:00 ※この時間での入堂はご遠慮ください。 信者以外でミサに参加希望の方は、カトリック長崎大司教区の説明を熟読ください。 ミサに参加したい方々へ カトリック長崎大司教区 |
問合せ | 長崎巡礼センター:℡095-893-8763 |
教会の保護者 | イエスのみ心 |
見どころ
黒崎教会の歴史
プチジャン神父と潜伏(隠れ)キリシタンとの奇跡の邂逅、いわゆる「信徒発見」が世界を驚かせた1865年(慶応元)。
潜伏(隠れ)キリシタンが実在を知ったプチジャン神父が黒崎部落を秘密裏に訪問。100軒の信徒に洗礼を施したことで、江戸初期に一旦閉じた外海カトリック史の幕が再びあがります。1878年(明治11)、のちに外海の太陽として崇敬されるマルク・マリー・ド・ロが初めての主任神父として黒崎に赴任。布教・福祉・医療・興産活動と八面六臂の活躍でその名を馳せます。
1887年(明治20)に小教区として独立。これにより、地区の教会を創建しようとする機運が一気に盛り上がります。
1897年(明治30)に土地の造成がおこなれて、黒崎教会史の第一歩が印されるものの、資金難により建築計画は頓挫。
ド・ロ神父没後の1918年(大正7)、岩永信平神父の着任後、ようやく工事が着工。
信徒たちの血がにじむような労働奉仕と浄財により、1920年(大正9)2月、ワインレッドに彩られた黒崎教会が産声をあげます。同年9月にコンバス司教によって献堂され、カトリック教会として正式に名を連ねました。
ただ、教会堂建設に尽力した岩永神父が式典に姿を現すことは終ぞありませんでした。
宿願だった教会完成を目にすることなく、天に召された岩永神父。ド・ロ神父とともに天国から式典を見守っていたことでしょう。きっと笑顔で。
建築上の特徴
長崎県下の教会群では、煉瓦造りの掉尾を飾る黒崎教会。
設計を手掛けたのはド・ロ神父といわれますが、広瀬 敦子著『よみがえる明治の宣教師 ハルブ神父の生涯』によると、岩永信平神父没後に着任したハルブ神父の影響も大きいようです。
前赴任先の奄美で、教会建築に豊富に関わった経緯からすれば、さもあらんな印象を受けます。
施工は地元大工の棟梁、川原忠蔵。父親の粂吉は、大浦天主堂の建設に参加した名工です。
約15万個の煉瓦が織りなす重厚なたたずまいを目にすると、煉瓦を一枚一枚積み上げた信徒の苦労が偲ばれます。
劣塔をつけることなく、代わりに玄関を出張らせた比較的簡素で、それでいて力強い意匠が印象的。
奥ゆきのあるリブ・ヴォールト天井で厳粛な内部空間を形成。教会堂隣にある鐘楼は、同地のキリシタンの帰依を願って故渋谷治神父から寄贈されたもの。
見学の際には、教会堂まで続く現地独特の石積み参道にも注目してください。
クリスマスイルミネーション
クリスマスでは、イルミネーションの輝きが周囲を優しく包みます。
黒崎教会 まとめ
献堂式への参列が叶わなかったド・ロ神父と岩永信平神父。黒崎から天草に着任し、世界遺産の地で崎津教会建築を指揮するハルブ神父。
施工に携わった川原忠蔵。そして、当時の信徒数246世帯による労働奉仕と、かんころ餅販売で得た僅かな現金収入からの浄財。総工費16,000円を要した黒崎教会は、当時米10キロが1円40銭だった時代に23年間もの年月をかけて完成させた、有名・無名全員の想いが積み上げられた名教会です。
参考文献・サイト
• 太田 静六、『長崎の天主堂と九州・山口の西洋館』、長崎県教育委員会、1982年、156頁
• 長崎文献社(編)、『長崎游学2「長崎・天草の教会と巡礼地完全ガイド」』、長崎文献社、2005年、28頁
• 吉田 さらさ、 『長崎の教会 (楽学ブックス)』、ジェイティビィパブリッシング、2015年、72頁
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